2002/08/18 静岡県御殿場市S川にて


MTBを蹴って野山を走っていた頃に、山中でキャンプすることがよくあった。近くに釣れそうな沢があると、すぐにロッドを振ってみる。僕の夢は食料を現地調達することだ。沢に張ったテントのそばで焚き火を起こし、魚を焼きながらウイスキーを飲る。アウトドア雑誌で見かける光景に夢は膨らむが、未だかつて実現したことはない。

山中での単独キャンプは、のんびり過ごせるように聞こえるが、実はそうでもない。テント張り、洗濯、薪拾い、湯沸し、自転車のメンテなど、すべて一人でやらなければならない。日没までの時間は非常に貴重で、釣れるかどうか保証のない釣りに、たくさんの時間を費やすことは出来なかった。もしかするとロッドを振るという行為は、僕にとってはキャンプの雰囲気作りでしかなかったのかも知れない。「小さな沢などに魚はいない」という先入観が、もともと僕の中にはあったのだと思う。

今回、たりちん氏と同行させていただいて驚いた。細々と水の流れる痩せた沢で、24センチのヤマメを追いまわし、畑の中の用水路でも大きなブラウンを釣ってしまうのである。「takiさん、あそこにキャストしてみて下さい」彼が指差す場所は、生活雑排水が流れるコンクリート2面張りの川。水は白く濁り、洗剤の泡が渦を巻いている。言われるままにキャストすると泡の下からギラリと白い腹が見えた。しかし水面より数メートルも高いコンクリートの上からでは、フッキングが難しい。たりちん氏は僕の横からスッっとスピナーを飛ばす。少しカウントダウンしてからフワッと浮かせ、あっという間にきれいなヤマメを引き抜いてしまった。

彼には「汚れているから釣れない」「痩せた沢は釣れない」などという先入観はまるでない。「上流で魚が釣れて下流でも釣れた、じゃぁ中間はどうなっているんだろう。そう思ったら試してみるんです」そう言うと彼は2メートル以上ある護岸からストンと飛び降り、釣りを始めた。「どうやって登るんですかぁ?」上から叫ぶと「登ることなんて考えてませんでしたぁ」

今回、御殿場周辺を案内していただき、一番良い思いをしたS川は僕のお気に入りになった。川幅は2メートルくらい。両サイドがブッシュになっているので、強い流れの中をグイグイ釣り上がるしかない。「takiさん、もう少し遠くにキャストして下さい」彼の言うとおり、思いっきりアップストリームにキャストする。左右にブッシュがあるために、ロッドを立ててリトリーブする。アクションもストップ&ゴーである。突然ブルブルっと手もとが暴れる。「ヒット、ヒット!」久しぶりの感触を楽しみながらグィっと合わせると、遥か前方で黒い固まりがジャンプした。まるで小さなマリンゲームのようである。「おおぉ!」たりちん氏も僕のリトリーブショーに声を上げていた。

S川での釣果は3尾のニジマス。その中で、写真撮影まで持ち込めたのは1尾であった。「takiさん、申し訳ない」もっと釣らせてあげたかったと何度も言われたが、僕は大満足である。釣行で得られたものは魚だけではない。今後は林道を走っていても、小さな沢を見つける度に竿を出すだろう。僕のツーリングは、ちっとも前に進まないかも知れない。