2002/10/06 渓流魚は、獣の匂いがわかるのか

 
「今年はどうでしたか?」川原の釣り師に尋ねてみた。
「全然ダメ、姿を見せないね。漁協は放流してるって言うんだけどね」と首をかしげている。

日曜日だというのに、この広い川原に我々だけだ。
その男は「釣れなきゃ、キノコでも取って帰るさ」そう言って、布川の方へ歩いて行った。


青宇治橋の下、石垣の際にキャスト。
先週、戦後最大と言われた台風が、この川に大量の雨を降らせていった。
川は、音をたてて流れている。白泡の中を、taki-minnowはキビキビと泳ぎきる。
しかし、ノーフィッシュ。
結局、一尾の魚影も確認できぬまま、布川ダムまで来てしまった。

数年前までこのダムは、たっぷりとした水を湛えていた。
しかし今では、土砂が溜まり、悠然と泳いでいたビックレインボーの姿も無い。

突然、堰堤の下から激しい犬の鳴き声がする。その犬は、僕を明らかに敵対視している。
しかし、「犬が堰堤の壁を登れるわけがない。飼主も一緒だし」と高を括っていた。
なんとその犬、直角の壁を、カリカリと爪の音を立てながら登ってくるではないか!
飼主は笑って見ているが、そいつに文句を言っている時間も無さそうだ。
そそくさと反対岸に渡り退散したが、後味が悪い。
例の、キノコを取りながら釣り上がると言っていた釣り師はどうなるのだろう。
かわいそうに、襲われて食われるかも知れない・・・。
 
今では増水時でもこの通り 流れの止まった場所が土俵となる

布川をあきらめ、中津川を塩水まで釣り上がることにした。
お昼だというのに、未だノーフィッシュ。
早瀬の中心に、大きな岩がある。そこへキャストすると魚が追ってきた。
しかし、流れのある場所までくると、すぐにUターンしてしまう。
決して流れへは出ようとしない。
まさか、台風による増水で、全体力を使い果たしてしまったのだろうか。

その後は流れの止まった場所を集中的に攻めていく。
しかし、アングラーには分が悪い。距離があまりにも短すぎるのだ。
勝負できる距離は、「石の幅」ということになる。
水中滞在時間をできるだけ稼がなければならない。アングラーの腕の見せ所である。

V字型の岩が、激しい流れをせき止めた場所。
その岩の向こうへキャスト。すぐにリトリーブを開始する。
しかし、ダメだ!
ミノーが一瞬で押し流され、岩の際をトレースすることができない。
もう一度、今度はV字の内側へキャスト、ストップ&ゴーで引いてくる。
しかも小刻みにミノーを揺らせながらだ。
右脳と左脳をフルに働かせ、神経を集中し、右腕でロッドを揺らし、左手でリールを巻く。
魚が追ってくることを信じ、想像する。
来た来た来た、追って来た!
揺らせ揺らせ、止めてはダメだ。
次の瞬間ロッドに魚信を感じた。
激しい流れに魚が持っていかれる。ジー、ドラグが鳴る。
夢中でリールを巻いた。

気がつくと足元に小さなイワナが跳ねていた。
ちょっとガッカリ、でも、面白い釣りだった。
 
中津川、塩水橋付近の風景 岩の際を、うまくトレースできた

疲れきって、林道をトボトボ歩いていると、若者が釣りの仕度をしている。
「これからですか?」
「ええ、久しぶりに来たんですよ」
その若者はルアーマンだった。
持っていたミノーと名刺を出して「これあげますよ」と言うと、
「takiさん、去年も会ってます!あれ?シングルフックにしちゃったんですか?」
去年、この釣行記にも登場した、あの時の若者であったか。
ちょうど良かった。
あの時、調子に乗ってテスト中のtaki-minnowをプレゼントしてしまい、後悔していたのである。
「今度会ったら、完成品を渡したい」そう思っていたのだ。

その後、例のキノコ取りの釣り師にも会った。
「犬がきませんでしたか?」
「来たよ」
「大丈夫でした?」
「大丈夫、でも、犬がくると決まって釣れない」
仕方が無いからキノコを取って帰って来たと言う。

「犬がくると釣れない」本当だろうか?
渓流魚は、獣の匂いを察知する能力があるのだろうか。
犬を連れたフライフィッシャーが、良型をあげているシーンを見たこともある。
魚に聞いてみないとわからないことは多い。