2002/10/11 禁漁日前に出会った、ある男の話

14日で今年の渓流釣りも終わってしまう。最後に僕が選んだフィールドは早戸川。
今シーズンのフィナーレとして、ぜひ良型のヤマメを釣り上げておきたかった。


まずは3本松付近から入渓する。水量は豊富だが、若干濁りがある。
おそらく、台風21号による増水で上流のマス釣り場が決壊し、
その修復作業を行っているせいだろう。
気にせずにキャストしていたが、9時頃になると笹濁りから泥水に変わってしまった。
これでは風情がない。
明日からの連休はマス釣り場にとっても書き入れだろう。
パワーショベルが大活躍しているに違いない。
はるか上流へ移動することにした。

↓3本松の淵

林道終点付近に数台の車が止まっていた。
四輪駆動車のドアを開け、荷物の整理をしている男がいる。
「こんにちは」頭を下げると「釣れました?」と返された。
「下は泥で釣りにならないでしょ?私はどうしてもヤマメを持って帰りたくてね」と彼が言った。

話を聞くと、釣り上げたヤマメを生きたまま家に持って帰ると言う。
しばらく育てた後、魚のいない小さな沢を見つけては放流していると言うのだ。
彼の車の中には発砲スチロールの箱が積んであり、そこにパイプをさして空気を入れている。
放流後に自分だけで釣ってやろうという目的ではない。彼に言わせると「罪滅ぼし」だそうだ。
↓早戸川林道終点付近 ↓林道終点付近の流れ

「目の前で産卵しているのを見たこともあるよ」と嬉しそうな顔をして言う。
「放流しても、増やすまでには長い時間がかかるでしょう?」と聞くと、
そうでもない、意外と早く増えると言う。
「ヤマセミに食われたりもするけど、いちばん怖いのは人間だよ」
その沢で魚が釣れる噂が広まると、あっという間にヤマメは姿を消すらしい。
それでも彼はこの行動を、30年以上もたった一人で続けてきた。

「今は家にメスのヤマメが2尾残っているだけなんだ。どうしてもあと1尾のオスがほしくてね」
「でもこの辺はイワナの領域ですよ。下流は泥水だし・・」
「うん、もう禁漁になっちゃうしなぁ」彼は残念そうに言った。

最上流の水はとてもクリアで気持ちいい。
しかし先行者が多いし、魚の姿も見えない。再び下流に向かった。

途中、丹沢観光センターを通り過ぎ、堰堤付近を眺めると水の濁りが消えている。
おそらく、昼休みで修復作業を中断しているのだろう。
林道脇には車が一台止まっている。しかし先行者は濁りのあるうちに入渓したに違いない。
「チャンスだ」と思った。
 

堰堤の上から瀬を丹念に探っていく。一度キャストしては3歩進み、再びそれを繰り返す。
アップストリームにキャストしたtaki-minnowが弧を描き、流心ををカーブしたその時ググッときた。
ランディング中、僕はいつになく落ち着いている。
この魚がおそらく今シーズン最後の釣果となるだろう。
足元に引き寄せると良型のヤマメであった。
ここはイワナの領域、めったにヤマメは出ない。
先行していたフライマンが僕のところへ戻ってきて言った「おめでとうございます」
釣れてすぐに濁りが入った↓

フックが不揃いだが、
この組み合わせはいい ↓

その後、川はすぐに泥水と化した。
「どうしてもあと1尾、オスのヤマメがほしいんだよねぇ」
上流で出会った釣り師とは連絡のつけようもない。
このヤマメにはこの川で子孫を増やしてもらいたい、素直にそう思う。
ヤマメはやがて僕の手を離れ、元気よく茶色の水の中に消えていった。