2003/05/10 初渓魚はニジマスだった
解禁から満足な釣果もなく、藤の花が咲く季節になってしまった。
木立からこぼれる柔らかな光が濡れた岩に反射している。
その岩に向かってミノーを投げると小さなヤマメがサッと逃げた。
彼らは僕を幸せな気持にさせる。
何しろこの2ヶ月、渓流魚の姿を見ていないのだ。
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対岸に小さな流れ込みがあった。
照準を白泡に合わせてキャストする。
水中の壁にじっと張り付いていた魚がミノーに気づき、スーッと追ってきた。
すぐさまムチを入れると相手もたまらず喰らいつく。
にわかにロッドは重くなり、ゴンゴンゴンという衝撃波が伝わってくる。
しかしダメ、ミノーはあっけなくすっぽ抜けてしまった。
その後、未練がましくキャストを続けたが音沙汰なし。
そのまま下流まで移動することにした。
ポイントを休ませている間に他を釣り、戻って来たときに再挑戦するのだ。
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キャンプ場前にある幅5メートルほどの緩やかな流れ。
水深があり、大きな底石が転々としている。
支流の流れ込みに立ち、はるか下流に向かって思いっきりキャストする。
ダウンストリームの場合、派手なアクションは無用である。
時折ロッドの先を震わせる程度でいい。
ガツンという当たりではない。徐々に重くなる引きを感じた。
魚だとわかるまでに何秒かかっただろう。重い!大きい!
鼻の穴が広がる。久々の興奮だ。
僕のいる位置から下流へは深場で移動もままならない。
船を漕ぐようにロッドを引くと、相手はまるでダンサーのように身をくねらせる。
その魅力的な魚体は幅広で、時折ギラリと乱反射している。
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それは一瞬の隙だった。
相手は緩んだラインを見逃さなかった。
やがてスーと軽くなり、悶えたままの魚体がミノーから離れると
そのままどこかへ流れて去ってしまった。
「ワッ!」
キャンプ場には人がいる。
でも関係ない。
大きな声を上げて地団駄を踏んだ。
ゴルファーのボギーやサッカーのミスゴールとは訳が違う。
ギャラリーは彼らの派手なアクションを期待している。
しかし、丹沢の「がけっぷちアングラー」のバラシにそれは無い。
なのに、ともすると膝まづき天を仰いでくやしがる。
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幸い、休ませておいた流れ込み付近をもう一度探り、25センチオーバーのニジマスを釣り上げた。
どうしても取り逃がしたくない僕は何度も何度も合わせを入れ、
「もう逃げるな」という言葉を呪文のように繰り返し、
逃げられる心配のない小さな水溜りに魚を引き入れ、写真撮影を終えた。
それは釣りを始めて間もない子供のような、ぎこちない取り込みであった。
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