2004/05/31  道志川でエンジェルを見た


久しぶりに釣具店に行った。トラウトロッド3,700円也。振ってみるとなかなか具合がよくミノーに適している。さっそく購入し小沢用に改造することにした。しかしその前に、まずこのロッドを使ってみたい。リトリーブ時のミノーの泳ぎや、魚がヒットしたときの粘り具合はどうだろう。何しろ無名の格安品である。また、最近は小さな川対策ばかり考えていたので、本流での釣りを思い切り楽しみたいという目論みもあった。そこで選んだフィールドは道志川。アマゴ生息の最北で、ヤマメ生息地最南となるこの川には両種が混在している。


両国橋から釣り下る。今日は不思議な天候だ。雨が激しく降っているのに日が照っている。最悪なことに強風がキャストの邪魔をする。広い川幅、その対岸に大物が隠れているに違いないのにミノーが届いてくれない。強風にキャップや眼鏡までも飛ばされそうになり、ただうずくまって風が止む一瞬を待つしかなかった。

途中キャンプ場の親爺に声をかける。「こんにちは」彼とは10年来の付き合いになる。「takiさん、久しぶりじゃん!今日休んだか?」人なつっこい顔は相変わらずだ。「ええ、アユが始まる前にゆっくり釣りがしたくて来ましたよ」僕は道志川のアユ解禁が相模川と同じだと勘違いして言った。「ここはね、20日解禁だよ」そう言った後、大きな淵を指さして「あの岩の下に大きなイワナがいるんだけんどもよ、だぁれにも釣れねーんだ。やってみなぁ、ルアーはオレンヂがいいな」
彼の事務所には大イワナを手にしてニカッと笑った彼の写真が飾られている。以前から魚のいる場所はわかっていたので何日もかけてやっと釣り上げたということだ。


オレンヂのルアーを使えと言われたが、僕はブルーのtaki-minnowをキャストした。理由は、最近一番実績のある信頼できるミノーだからだ。言われたポイントにキャストしてみたが、20センチ弱の魚がフラフラと追いかけて来て、すぐに帰ってしまった。

午後になって風は止み、ロッドも手に馴染んできた。広い淵の遠い場所までミノーを飛ばす。大きな魚が追いかけてくる。ここでミノーを止め、鞭打つようなアクションをつけると普通は食ってくる。しかしロッドが柔らかいとアクションにメリハリが出ない。そのうちUターンして行ってしまった。


もう、下手な小細工をするのはやめた。「ただ巻き」に徹する。ミノーもオレンヂに替えてみた。あらかじめ頭の中で描いたコースをリトリーブ。ミノーが弧を描がき、その頂点に達した瞬間にギュイーンときた。ロッドがUの字に変形する。
いつものようなブルブルやゴンゴンといった魚からのメッセージが伝わってこない。ただただ重い。しかし水中には確実にのた打ち回る魚の姿があった「太い!」。

先日の悪夢が頭をよぎる。ここで逃げられたら僕は大声で泣きじゃくるに違いない。絶対逃がしてなるものか。しかし、リールのハンドルが重たくて巻けない。ロッドに腰がなくてグィッと引けない。ジリジリと後ろに下がる途中、石につまづいてよろけてしまった。その瞬間に眼鏡が曲がり「大村崑」のように鼻からずれる。魚が岸に上がったようだが、石に隠れてよく見えない。水際に向かって全力疾走すると、いたいた!コロンと太った大きなヤマメ。ジタバタと暴れることなく「煮るなり焼くなり、好きなようにせい!」とばかりにドッシリと寝ている。すぐに水中に返してやり、写真撮影をしてリリースした。大満足である。

キャンプ場の親爺が言ったオレンヂ色。以前の釣行記にも書いたことがあるが、その川の水や岩の色に溶け込むカラーリングが有効なのかも知れない。

傷ついたヤマメ 環境に溶け込む色とは

釣り上がりながら戻る途中、傷ついたヤマメがフラフラと泳いでいた。C&R区間で何度も釣られたのか、なわばり争いに負けたのか、その魚体はボロボロである。やっと泳いではいるが、もう長くないことは僕にもわかった。すると突然、僕の背後に生き物の気配がした。ビクッとして振り返ると大きなトビが舞い降りて来てそのヤマメを掴み、悠々と、そしてゆっくりと飛び去って行った。まるでエンジェルの翼だ。「ヤツに食べられてもらって良かったな」素直にそう感じるのだった。