2005/04/09 桜の下でヤマメを釣る 布川釣行
「おまえー、何やってるんだよ!」
僕は思わず叱りつけた。
「もう一回行って来い」
「今度は逃がすなよ」
ルアーに向かって説教している姿は誰が見ても変だ。

中津川合流点から延々と釣り上がる。
大洞キャンプ場跡に入ってすぐにヒット、ミノーをくわえた魚がジャンプした。
新ロッドを使用してから初めての良型だ。
以前とは明らかに違うその魚信に興奮する。

その矢先だ。
ポッチャ〜ン・・・・・。
取り逃がした!
戻ってきたミノーは、何も言わずにチラリと僕を見た。
下から人を見上げるその態度。
「お前、自分の役目をわかっているのか」


今使っているミノーは昨年8本作ったうちの最後のひとつだ。
他のミノーたちが次々と紛失、根掛、大破により玉砕していく中で、
今日まで何尾もの渓魚を捕らえてきてくれた貴重な一個である。
次回からは今年のモデルを使うつもりなので、彼にとっては今日が最後の仕事となる。
その記念すべき仕事収めにふさわしい魚をゲットするべく僕も努力しているのだった。

山肌の斜面に、しがみつくようにして花を咲かせている桜の木。
川原のあちこちに揺れる枯れ枝、よく見ると小さな緑の芽をつけている。
景色はまもなく茶色から鮮やかなグリーンに変わり、蒸れるような森の匂いが立ち込めるだろう。
早瀬の窪みにミノーを走らせると、無邪気な小イワナが絡みついてきた。
目の前でガマ蛙がいちゃついている。
山にもやっと春が巡ってきた。

全神経を集中して、小さな落ち込みも見逃さないように釣り上がる。
札掛登山道を過ぎた辺りに、滝のように流れ込んでいる支流がある。
その横に深場があった。
そこは白泡のおかげで酸素量が豊富な場所。
そして身を隠すための岩と深い淵、僕が魚だったらきっと住むだろう。



遠くからそのポイントにキャストする。
ミノーはみごとに淵に吸い込まれ、すぐに泳ぎ出した。
でもダメ。
今度はグッと近づいて、真横からキャスト、その後ゆっくりと流す。
「あうっ」
ゴンゴンという魚信が手元に伝わる。
バシャバシャバシャっと魚が暴れる。
この時間が一番幸せだ。
もう少し楽しみたいけど、気持に余裕がない。
足元に引き寄せて即座に写真撮影を終わらせてホッとした。

「ミノーよ、最後の仕事をご苦労だったな」などとは言わない。
さっき、魚をバラしてヤツのせいにしたことなど、すっかり忘れて僕はひたすら喜んでいた。
帰り道、ミノーはおとなしくプラスチックケースに収まり、歩くたびにカタカタと鳴っていた。