2006/08/27  ひるむなアングラー!
午前11時、入渓がすっかり遅れてしまった。
早戸川林道は通行を制限されているが、目ぼしいポイントにはすでに車が止まっている。
僕の一番のお気に入りは国際マス釣り場から2番目の滝を越えた場所だ。
ここは川原が広く、思いきりロッドを振れるのがいい。
緩やかな瀬と早瀬が混在し、適度な深さの淵もある。
足元に転がる無数の岩が、魚に住みやすい環境を提供している。




平坦なチャラ瀬にキャストしてみた。
新作ミノーのオレンヂ色の背がクネクネとスイムしてゆく。
途中、底石の上でミノーを止めるが、スローシンキングのtaki_minnowがすぐに沈むことはない。
ロッドをムチ打つように叩き、その場で踊るようなアクションを与える。
一通りアピールが終わればすぐさまストップアンドゴーで引いてくるのだ。
気がつけばミノーの近くに黒い影、「食え、食え」とつぶやきながら再度躍らせる。
影はたまらずに食ってきた。
水しぶきを立てて、激しく首を振りながらこちらに近づいてくる。
この状態でプツンと軽くなってしまう経験が何度もあるので、ファイト中はいつもビクつく。
ただ、今回の新作taki_minnnowにはサスペンションフックが搭載してあるのだ。
魚が暴れてもフック自体にショック吸収性を持たせてある。
それが幸いしたのだろうか、魚の口からミノーが外れることはなかった。

釣り上げたヤマメは20センチ弱、鋭いフックで目が傷ついてしまっている。
キープしようにもビクやクーラーを持っていない。
その場で木を削って即席のストリンガーを作る。
それを口とエラに取り付けて糸で結び、生きたまま水中に放しておいた。




雨が降り出した。
深い淵、ここは何度も攻められているはずだ。
しかし雨の雫が薄いカーテンを作り、透き通っていた水の底を隠してしまう。
ミノーをキャストすると警戒心の取れたヤマメが足元まで追ってきた。
もう一度キャストするとガツンとアタックしてからジャンプした。
「おお!」思わす声が出る。
かなり活性が上がってきたようだ。
その後も20センチ弱のヤマメが4尾も釣れ、早戸川にしては珍しい釣果になった。




夢中でミノーを投げ続けていたら、やがて夕暮れの時刻だ。
退渓前に、キープしたままのヤマメを取りに行く。
見過ごさないように川岸に付けておいた目印へ歩み寄ると、大きな蜂が周囲を飛び始めた。
無視して近づくと、さらにうるさく飛び回る。
ブーンという大きな羽音を立てて僕の行く手を阻むのだ。
進むほどに激しさを増し、後退すると追っては来ない。
どうも近くに巣があるようだ。
困ったものだ・・・。
フックで傷ついたヤマメ、そいつを川に沈めたまま取りにも行けない。
糸につながれたヤマメはやがて息耐えてしまうだろう。




可哀想なヤマメよ。
一度帰りかけたが、やっぱり諦めきれない。
今日は昼飯を食っていないので腹ペコなのだ。
ヤマメは僕の今夜の肴でもある。
人間は生きるために食う。
蜂に負けていたら食にはありつけない。
きっ!と振り返り、そのまま目印に向って全力疾走、蜂も狂ったように僕の周りを飛び回る。
「だぁー!」
気合を入れ、水中に手を突っ込んでヤマメを鷲づかみにして思い切り逃走した。
社会的地位も家庭も手に入れた熟年男性のささやかな休日は、こうして荒い息と脂汗の中で幕を閉じたのである。