2006/09/23  命豊かな川
水辺に踏み入ると小魚の影が走った。
岸に動物たちの足跡が残され、その上には色づいた木々の葉が舞っている。
K沢川は命豊かな川だ。
森の中からピーと鹿の鳴き声がする。
怪しい釣り人が来たことを知らせているのだろうか、
それに応えるようにまたどこかでピーと鳴くのである。

キャンプ場前の堰堤には、たっぷりと水を湛えるプールができていた。
4センチのミノーを、放水口直下の白泡にキャストしてみる。
ラインスラッグを取り、ロッドを煽ると実に軽快な泳ぎを見せた。
動き過ぎるミノーはバレやすい。
しかしこのミノーには独特の形状と後部重心、そして振れの少ないトレブルフックが使われバレ対策が随所に施されている。
あとはアングラーがどう演出するかだ。




再びキャスティング、そしてゆっくりとロッドを起こす。
魚が口を使いやすいようにしばらく止め、さらにゆっくりと泳がせた。
その直後にゴンゴンゴン!
ロッドを叩くような魚信を感じ、アベレージサイズが上がってきた。
この川特有の黒っぽいヤマメ、腹は卵でパンパンに膨れていた。

堰堤を上ると開けた川原に出る。
釣り人の足跡が随所に残り、その中のいくつかは先行者のものかも知れない。
急いで釣り上がっても、追いついてしまってはつまらない。
小さなポイントを丁寧に探りつつ、時間をかけてのんびり進むことにした。





遥か上流にある大石に向ってtaki_minnowをキャスト、その後トゥイッチを繰り返しながら引いてくる。
突然グリップがブルブルと震えた。
激しい水しぶきとロッドに伝わる不規則な魚信、そいつをじっくりと味わいながら寄せてくる。
魚は必死に首を振るが、サスペンションフックにパワーを吸収され思うようにミノーを振り払えない。
キャスティングから始まるすべてのプロセスを、しっかりと記憶に留めながらランディング。
以前の僕は慌てて魚を引き抜いてしまい、後になってもよく覚えていないことも多かった。
この差は大きい。




二つの堰堤が連なった場所がある。
そこにアングラーを見つけた。
コンクリートの上に立ち、何度もキャスティングを繰り返している。
山深い渓流で人に会えば緊張が解けて親近感がわく。
しかもルアーの同士とくれば話を聞いてみたいではないか。
堰堤に立つ彼を地上から見つめるが、まったく気づいてくれない。
「すみません!」と声をかけても、ゴーという水の音に消されてダメだ。
両手を広げて飛んだり跳ねたりしても一向に振り向く様子はない。
彼の邪魔をしないように大きく回りこんで二段目の堰堤上に向った。
そこで待つつもりだったが、僕の予想に反して彼はそのまま下流へ向ってしまった。

再び一人ぼっちとなった僕は堰堤の上から釣り始める。
細かい落ち込みをひとつずつ探ってゆくが、魚の気配すらない。
川原には新しい足跡がいくつも残されている。
ここはハイキングロードと出会う場所だ。
堰堤にいた彼も、おそらくこの場所から釣り下って行ったのだろう。
僕も対岸の山道を下って帰ることに決めた。



川を渡る。
水浴びをしていた鳥が僕に驚き飛び立った。
K沢川は命豊かな川だ。
このフィールドで渓魚を追いかける我々は、彼らにとって迷惑な存在だろう。
しかし自然を汚さず乱獲もやめる。
最低限のマナーを守れば、少しは彼らに近づけるかも知れない。

今日、折れて捨てられたロッドを拾った・・・。