2006/10/14  最終最後、日没の勝負
午前6時半、現地に到着。
しかし林道が通行止めだ。
周辺の路肩にも駐車禁止の立て看板が設置されていて車を止める場所がない。
公営駐車場が開くのは8時半、それまでの数時間を下流で過ごすことにした。
川原の砂利道に車を止めて周囲を眺める。
両岸には民家や商店、そして鉄工所などが建ち並ぶ。
水は澄んでいるものの、生活廃水が流れているに違いない。
「釣れてもウグイくらいだな」
しかしボーっと待っているのも時間の無駄だ、ウェーダーを履いて川に降りてみた。




川の中央に立ち、小さな堰に向ってtaki_minnowをキャストする。
ロッドからゴツゴツという感触が伝わる。
ミノーが浅瀬を通過するときに小石と接触し、魚信に似た振動が起きるのだ。
「ん?」
「違う、やっぱり釣れてるんだ!」
ミノーの後ろに大きな影がついている。
あわててラインを巻き取り、なんとか足元まで寄せてきた。
しかし合わせが入らなかった魚の口からはtaki_minnowがゆらゆらと外れてゆく。
魚はまだその事実に気づかずにじっとしている。
「うおー(魚)、さかなぁ(魚)!」
急いで足元にいる渓魚を拾おうとしゃがみこんだ。
それに驚いた魚がサッと逃げ、すべての可能性は一瞬にして絶たれてしまったのである。

1投目で大物が掛かるなんて・・・。
「いや待てよ、この周辺はきっと魚だらけなんだ!」
その考えが間違いだったと知るのはそれから数時間後である。
ずっと下流のポイントから堰という堰を丹念に探る。
しかし魚の気配すら感じない。
どうやらこの周辺に生息している渓魚はあの1尾だけで、
それをたまたま1投目でヒットさせてしまったようである。




公営駐車場に車を止め、そこから自転車で山を上る。
滝沢苑キャンプ場上から入渓。
立ち入り禁止区域を除いたすべてのポイントを攻め歩く。
ビルのように立ちはだかる高い堰堤の崖を、いくつも這い上がっては越えてゆく。
フラットな流れにもミノーをキャストしつつ歩いてゆく。
誰もいない広大な川原にひとり、
この場所で素っ裸になり大の字になっても誰もとがめる者はいない。
僕は限りなく自由である。




谷が険しくなり、いくつもの落ち込みが現われた。
広い淵にミノーを投げ込むと小さなヤマメが釣れた。
入渓してからずっと、水中に命のかけらも感じなかったのでうれしい。
その後もぽつぽつとチビヤマメが釣れ始めた。
「チビだけど綺麗だ」
実はこの言葉、最初に取り逃がした下流の大物を忘れるために吐いた言葉だ。
振り返れば今シーズンは数々の良型を取り逃がし、後悔とグチの連続であった。
今はこの渓流で心ゆくまでロッドを振ろう。
そして過去の失敗など忘れ、来シーズンへと気持ちを切り替えるのだ。




「5時にはゲートを閉めますから・・」
駐車場の管理人からそう言われていた。
現在3時半、もう行かなければならない。
崖を登り林道を歩き、さらに自転車を飛ばして車に戻った。

駐車料金を払い、黙ってハンドルを握る。
車が進む方向は水無川下流域。
「やっぱり満足できない」
川原の砂利道に車を止めて、今朝と同じ場所から川に降りた。

橋の上から美しい女性がこちらを見ている。
ジョギングの男は立ち止まって笑っている。
夕暮れの下流域、僕は黙々とキャストし続けてゆく。
しかしどの堰を探ってもやはり当たりはない。
町じゅうに5時を告げる鐘がなると、急に夕闇が迫って来た。




5時30分、今朝1投目を飛ばした因縁の堰に立つ。
おそらくチャンスは1度きり、このワンキャストで今シーズンの丹沢は終了する。
すべての希望をこのtaki_minnowに託し、手首のスナップをきかせて慎重にキャスト。
派手なアクションはしない、ただ素直に引いてくる。
溜まりの中央でググッときた!
確かな魚信が伝わって来る。
ピンと張った黄色いラインが街灯の光の中で右往左往している。
やがて水面を割って魚が姿を見せた。
「こいつだ、色も型も間違いない」
足元で跳ねる太ったヤマメ、そいつは紛れもなく今朝と同じ魚だった。
その下顎にはしっかりとサスペンションフックが刺さっている。
「やったー」

夕闇迫る水無川、まもなく丹沢は長い禁漁期間を向える。