2006/10/21  2年越しの思い
2年前の春、Yellow氏の案内でこの川を訪れた。
透き通った水の美しさは森の匂いと共に心地よく、豊かな魚影には感歎の声をあげたものである。
あの時は入渓してすぐ2尾をバラし、さらに上流のプールでは大物を取り逃がしてしまった。
しかし、僕を相手にしてくれた魚はたったそれだけ、この川に住むほとんどの魚は僕のミノーに興味を示すことなどなかったのである。
みすみす魚影を確認しながらもノーフィッシュに終わった悔しさは2年経っても忘れられない。
今日はその無念を晴らすためにこの川にやってきたのだ。




辺りの空気はひんやりとしている。
水量は決して多くなく、所々で伏流している。
大きな滝の手前から川に降りると、魚が僕に驚いてスッと逃げた。
はるか大岩の手前を狙って思い切りキャスト、ミノーが放物線を描いて飛んでゆく。
スプールに軽く指を乗せ、その勢いにブレーキをかける。
するとミノーはゆっくりと落下し、岩の狭間に吸い込まれていった。

着水と同時に岩の下から何尾もの魚が飛び出してくる。
あるものは右へ、あるものは左へ、そして引き返すやつもいた。
しかし、ミノーを追ってくる魚はいない。
2年前と同じ状況だ。
さらにもう1度キャスティングを試みる。
すると今度は1尾も出てこない。
それなのに近寄ると良型の影がスッと移動するのは何故だろう。
まるで、からかわれているような気持ちにさえなってくるのだ。




キャンプ場の下では良型がライズしていた。
遠くから、しかも姿勢を低くしてその場所へロングキャスト。
少しずつラインを引き、ミノーが水中に滞在する時間をできるだけ長く保ちながらリトリーブ。
全身が緊張で硬直する。
だけどダメ。
何の抵抗も感じないままミノーは回収されてしまった。

川の上下流が伏流している場所、限られたエリアにだけ水が溜まっている。
そんなポイントに魚がいるわけがないと油断して歩いていると意外にも良型が走った。
僕が常識だと考えているその範囲を超えた、とても釣りにくい川なのである。

上流へ向うほど素晴らしくなる渓相、それとは逆に魚影は薄くなってゆく。
林道終点の辺りでは小魚の影さえも見えなくなってしまった。
「今日もまた釣れないのか」
諦めてずっと下流に移動した。
最初に入渓した大きな滝のある場所、朝とは逆に下流に向って釣り下る。




石垣の横に大きなプールが出来ていた。
水面には落ち葉が何枚も浮いている。
遠くから投げてゆっくりと引くが、落ち葉が絡んで思うようにスイムしてくれない。
3度目に投げたミノーが石垣に当たり、そこからプールの奥へと落ちた。
2度もキャスティングに失敗しているので、魚は警戒しているに決まっている。
半ばあきらめつつもソロリソロリとミノーを泳がせる。
ブルブルブル!
「おぉ!!」
止っていた時間が急に動き出すように、にわかに水面は活気付いた。
バシャバシャ!
落ち葉は揺れ、水しぶきが飛ぶ。
魚を流れの緩やかな場所に導けば、体側に綺麗な朱色の点だ。
紛れも無い純天然のアマゴだった。




「釣れた・・・」
2年越しの願いが叶い、力が抜けるような思いがする。
掌におとなしく収まるアマゴを何度も撫で、その後水中へ滑らせてやった。
アマゴは忙しく尾ビレを動かしながら、しばらくその場に留まっていたが、
やがて体力が回復すると緩やかな流れへ戻っていった。

大きく息を吸いながら大空を見上げる。
一日中ずっと川の中ばかり見ていたので、秋空の深い青がとても新鮮に感じた。