2007/06/23  未練の沢
M沢はいくつもの小渓が合流し合ってできている。
全長は約6km、狭い流れが岩の隙間を縫うように流れてゆく。
魚の姿を見ない年もあるが、今年は豊富な魚影に恵まれた。



入渓してすぐに見つけたわずかな溜り、透き通った水の中を泳ぎまわる魚の群れ。
体を伏せて気づかれぬようにキャストすると、小さなヤマメが応えてくれた。




出だしは好調だったが、その先が続かない。
しかもかなりの減水だ。
途中で伏流してしまい、釣りにならない場所もある。
落ち込みから続く小さな溜りへ、難民のように避難する魚たち。
その上空をtaki_minnowが飛んでゆく。
敵機を見つけた民衆のように彼らは逃げ惑い、様々な場所へと散ってしまう。
その後着水したミノーがどんなに魅惑的な動きをしても、つられて出てくるものなど一尾もいないのである。

この沢の両側は泥の崖。
通らずまで行くと川原をそのまま引き返し、土まみれの草むらをかきわけながら巻かなければならない。
釣り上がっては行き止まり、そして戻り、崖を這い上がってはまた下る。
苦労して降り立つと水の無い川底で複数のヒルが踊っていた。




別の沢へ移動する。

広く開けた滝の上。
切り立った崖を降りるが、それより下には危険すぎて行けない。
プール右側の薄暗い岩場にキャスト。
ロッドを煽り、糸ふけを取る。
柔らかいロッドが弓のように曲がった。
流木か?
違う、魚だ!
デカイ!
一度激しく首を振ったが、サスペンションフックを外せずに諦めた様子だ。
その後は抵抗するでもなく、「ぬたぁ」っと水面を引かれてくる。
大きな安心感、落ち着いて滝つぼの際まで寄せてきた。

さて、そこからが問題だ。
僕は高い場所に立っている。
下へは危険すぎて降りては行けない。
どうやって取り込もうか?
思い切りロッドを引くが、魚を持ち上げることはできない。
大イワナはミノーを咥えたまま、水面から顔だけを出している。
ズリズリと引き、なんとか真下の岩に乗せることができた。
ほっと一安心。



ところがどうだ、ミノーが魚のクチから外れている。
このままでは数回ジャンプされたら水中へ逃げられてしまう!
無我夢中で危険な岩崖を滑り降りた。
膝を強く打ったがまずは魚だ。
「証拠、証拠」
必死で魚を掴む。
しかし隙間をすり抜けるのがイワナの専売特許。
何度押さえても指の間をヌメリと逃げる。
終には深い滝つぼへ吸い込まれるように落ちていった。

水を含んだ古いシューズが足枷のように重い。
木の枝を杖代わりに薄暗い山を歩く。
あの時、胸ポケットにはバンダナがあった。
それで掴めばよかったな。
後になって様々な策が浮かんでくる。
「仕方ない」
明日へつなげよう、僕は確かに釣ったのだから・・・。