2007/08/09  追われるアングラー
新しいミノーを持ってきた。
今までに作ったこともない形状をしていて面白い動きをする。
背には蛍光レッドを塗ってある。
ただし2度と同じものは作れない。
なぜなら、数個製作したうちのほとんどが失敗。
この作品だけが唯一まともにスイムした偶然の産物なのだ。


林道終点の駐車スペースから入渓する。
大きな岩の下を通すと、艶やかな赤色の背を真っ黒な魚が追ってくる。
ミノーが次の落ち込みに入った瞬間に引き返してしまったが、これから向う上流への期待感で胸が一杯になった。

しばらくは手ごたえの無いまま釣り上がる。
幾度となく水中がギラリと光るのだが針掛かりしない。
途中、餌釣り師に会う。
彼はウェーダーも履かずに、合羽と長靴だけで釣り上がって来た。
「俺は地元なんだ、下のマス釣り場は俺の親戚でね」
「サッパリ釣れません」と愚痴ると「この辺は全部ハヤだよ」と笑う。
過去に何度も渓魚を釣った場所、ハヤの生息域が少しずつ上流へ上がっているのだろうか。



林道と交差する場所の少し手前、猛スピードで飛んできた蜂が空中でピタリと止まった。
一寸のぶれも無くフォバリングしながら僕をじっと見ている。
その後、周囲を飛び始めた。
「これはたまらん」
釣りをやめ上流へ移動、それでも追ってくる。
竿を抱えたまま、僕の逃げる速度は徐々に上がる。
いくら逃げても蜂はまとわり付いて来る。
体力の続く限り全速で上流へ向った。
大岩を這い上がり、時に水しぶきを上げながら走る。
やがて蜂はどこかへ消えてしまったが、今さら再開する気にもなれずに上流をあきらめることにした。

谷太郎川下流域、たっぷりと水を抱えた大きな溜りが続く場所。
シュノーケルとモリを持った男が今まさに潜ろうとしていた。
「待って下さい、投げさせて!」
シュッとキャスト、やがて空しくミノーが戻る。
その繰り返し・・・。
シュノーケルの彼は黙ってそれを見ている。
結局その場は何も釣れず。
あれだけ頼み込んだのに無駄な時間を使わせてしまい、恐縮しつつ上流へ移動した。




マス釣り場から2キロほど下流の滝の上、小さな流れにキャストする。
ギュイーン!
すごい引きだ。
しかし、プツン・・軽くなる。
スイベルの結び目からライン切れ、ミノーごと持って行かれてしまった。
「これはまいったな・・」
後にも先にもひとつしかない貴重なミノーである。
「無くしたくない・・・」
浅く狭い流れの中、蛍光レッドを咥えた魚が泳ぐのが見える。
ロッドを投げ出して手づかみを試みた。
しかし何度やってもかすりもしない。
「さっきのシュノーケル野郎に頼もうかな」とも思ったが、そうもいかずに諦めることにした。
以前、唐沢川でミノーを拾ったことがある。
なんとそれは数年前にロストした自分のミノーだった。
過去の作品がタイムマシンに乗ってやってきたような不思議な気持ちになったものである。
「そんな風に見つかるかも知れないな」


その後、もの凄いニジマスのパワーで新緑ミノーまでも紛失した。
ラインが「パチン!」と音を立てて切れたのである。
ドラグ調整の不備だった・・。
今日は最後までドタバタ釣行、それでもクリールの中には良型が3尾。
今夜はシャンパンでも開け、気持ちを切り替えて泥のように眠ることにしよう。