2007/09/01  雨の本谷川
両腕に力を込めて大きな石のかたまりをよじ登る。
やっとの思いで乗り越えたのに、すでにそこには先客がいた。
その釣り人はしゃがみ込み、絡んだラインと格闘している。
知らん顔して彼を追い越し、そのまま釣り上がることも東丹沢では珍しいことではない。
しかし見たところ、スレた魚を引き抜けるほどの熟練者ではないようだ。
おそらくはガイドブックでも見て、わくわくしながらやって来たに違いない。
そんな彼の目の前をルアーで荒らしてしまうのはあまりにも酷だろう。
そこで大きく迂回して遥か上流のステージに入ることにした。



しかし、川原にはすでに濡れた足跡が貼りついている。
前方に確認できる人影が3名、林道を歩いて行く釣り人2名、
互いに話をしながら竿を出している。
どうやらグループで釣りに来ているらしい。
彼らの隙間をつまむようにキャストしては上る、その繰り返しだった。


やがて雨が降り出す頃、先行者の姿もなくなった。
急流の横にはいくつかの水溜りができており、その表面は鏡のように滑らかである。
時折、木々から落ちる連続した水滴が、その美しい水面を乱してゆく。
ぐっと近づき静かにキャスト、少しミノーを揺らすとプルプルときた。
上がってきたのは小さなヤマメ、フックを手に取った瞬間に勢いよく逃げてしまった。




茶色い吊橋の下に流木が横たわる場所。
その上流にミノーを投げ込み、丸太の脇をトレースすると微かな当たりがあった。
フッキングが甘くなるのはアップストリームの弱点だ。
最後まで確かな手ごたえを感じることなく、気がつけば岸でヤマメが跳ねていた。
20センチ弱、ここではレギュラーサイズだろう。



生温い風にまざって、時折冷んやりとした空気を感じる季節。
思えばシーズン当初より心から安らぐような釣りをしていない。
残りはあとわずかである。
せめて秋の渓だけはゆったりした気持ちで楽しみたい。
そしてできれば大物を、毎年唱えるお決まりの台詞である。