2007/10/04  のん気に沢を行く
細い流れ、所々にある開きは足首ほどの深さしかない。
その中央へミノーを落とすと小さな魚が四方へ散った。
どのポイントにも少なからず魚がいて時折良型の影も見える。
残念ながら豪快なヒットはなく、追ってきても口先でつまむ程度だ。



今日はこの小さすぎる沢を3人で釣る。
先頭がいくつかのポイントを飛ばしながらスピーディーに釣り上がり、
二番手は少しだけじっくり進む。
さらに三番手は隙間なくキャストし続け、二人の釣りこぼしを片付けて行くシステムだ。
何番目を行く者であろうと釣れた時点で最後尾にまわる。
これは我々にとって暗黙のルールとなった。

しかし、その連携を完璧に保つには無理がある。
普段から単独釣行の多い我々は、会話をしながらの釣りが楽しくて仕方ない。
しばらくはダンゴ状態になり、互いの話にゲラゲラ笑いつつ交互にキャストしていた。



そろそろ釣果がほしい頃だ。
三人とも持ち場に帰り、黙々と投げ始める。
やがて遠くから叫ぶ声が聞こえた。
すぐさま上流へ飛んでいくとTABO氏が浅瀬の中央にひざまずいている。
「何事だろう・・」
近寄ると彼は満足気にネットの中を見つめていた。
そこには綺麗なヤマメが納まっている。
「釣れたんだぁ、おめでとう」
朝から魚を見ずに来たので、この事実は大きな励みになった。
「魚信をしっかり記憶しましたか?」
「ええ、今でもこの腕が覚えています!」
「そいつは快感だろう、幸せだ」
マニアならではの会話が続く。




あまり自信作とは言えない小さなミノーを放ってみる。
広瀬のゆったりした流れの中を、プルプルと振るえながら進む姿が愛らしい。
僕の正面、流れの中央に大きな岩がある。
その岩の向こう側、つまり上流側に近づいたところでガツンときた。
約18センチのアマゴ、このクラスの渓魚が一番元気だ。

「おめでとうございます!」と仲間が祝福してくれた。
「いやぁ、このミノーで釣ってしまったよ、わっはっは」とTABO氏に自慢する。
やがて、すました顔をして琉空氏が近づいてきた。
何か様子がおかしい。
よく見ると手には太ったヤマメが握られている。
僕と同じ場所にキャストして、簡単に良型を引き出してしまったようだ。
この男、できるな・・。


帰りは長い林道をひたすら下る。
途中、巨大な虫取り網を背負った男とすれ違う。
「何か採集ですか?」
「蛾・・。」
「ガ?それをどうするんですか?」
「博物館に展示する」
「蛾なんか誰が見るんですか?」とは聞かない。
彼は虫が大好きで博物館に頼まれて蝶の類を採集しているらしい。
夜中も網を振り回し、最近では毎夜奮闘していると言う。
それほど苦労しても得るものは単に「蛾」でしかない。
しかし彼には、僕らが求めるヤマメ同様の価値があるのだろう。



足元を見るとアケビやクリ、その他多数の木の実が転がっている。
石の上には小動物のマーキングが残され、中には種子がごっそり含まれていた。
彼らは来るべき冬に備え早くも準備を始めている。
「オフシーズンは何をして過ごしましょうかね〜」
林道を下る僕らの背中を動物たちはそっと見ていたかも知れない。
忙しく木の実をかじりながら、のん気なヤツらだと呆れていただろう。