2008/03/01  リセットの利く川
田園を流れる小さな里川、石積みの護岸からは水が湧き出している。
そのクリアな水と近隣からそそぐ生活臭を帯びた水が、混ざり合いながら浄化されつつ流れてゆく。
Yellow氏と2人、橋の上から川を見おろす。
「あの溜り今年も入れ食いかな」
彼は昨年、天然ヤマメを連続ヒットさせた武勇伝を持っている。
その場所に降りてみた。
しかし魚がいるとは思えない。
かつての楽園も、今では生命感のない浅い溜りに変わっている。
「この辺の水中がギラギラ光っててさ、釣り上げてみたら全部ヤマメだったんだ」
彼が指差す水の底にはベットリとした藻が揺れていた。



下流に見切りをつけ上流を目指す。
田園の里川も高度を増すにつれ、杉林の清流へと姿を変える。
細い流れ、少ない水、さらに2名の先行者がいた。
条件は良くない。
この場所はYellow氏の毛鉤に託し、僕はさらに源流へ向った。

延々と歩き、林道の終点から渓に降りる。
水量不足のためにキャスティングができるのは堰堤直下の窪みだけだ。
そこがダメなら崖を越えて次のステージに進まなければならない。
無数の笹や、細かい枝をかき分けながらの登りもつらい。
もしも長いロッドやネットを持っていたら遡行は困難を極めただろう。



高い場所から勢いよく水が落ちている。
その雫までも受け入れる深い溜り、岸壁の際へtaki_minnowを落とし込む。
ふわっと弛んだ糸ふけが、ピンと張りググッと来た。
この嬉しさは何に例えたら良いのだろう。
快感とはまさにこれだ!
腰のないロッドがグ〜ンと曲がり、水面下に白い腹が見えてきた。
「やった、やったよ!」
こんなに高い所まで、ほとんど魚影を見ることもなく上がってきたのだ。
そいつも報われる。
しかし、次の瞬間・・・。
魚は岩肌を転がり、下流の落ち込みへ吸い込まれてしまった。

その場にうずくまる。
「ひぃ」
消え入る様な声で叫ぶ。
「悔しい・・」
顔をくちゃくちゃにして泣きそうになる僕。
こんなときに感情を抑えることなど不可能だ。



釣りというゲームにリセットボタンはない。
「でも、もう一度・・・」
往生際のわるい僕は再度同じ場所に立ち、同じようにキャストした。
するとグググッ!
驚いたことに同じような魚が同じように食ってきたのである。
良型のイワナ、それをしっかりと手にした僕は満面の笑みだ。
嬉しくて嬉しくて魚がふらふらになるまで撫で回した。

おそらく雄と雌のペアであったのだろう。
夫婦でくつろいでいた所へ鋭利なフックで妻を掛け、さらに抵抗する夫を釣り上げたのだ。
そっと手を放すと、イワナはよろよろと妻の逃げた方向へ泳いで行った。



日がだいぶ傾いてきた。
山を下る途中でYellow氏から連絡が入る。
「指にフックが・・、これから外科に・・」
鋭利なフックで自らを、なんてシャレにならない。
せっかくの解禁日なのにとんだ事になってしまった。
この無念を晴らすため、彼とはもう一度ここに来なければならない。
そしてさらなる武勇伝が生まれることを願っている。