2008/03/22  慌てる釣り人とその釣果
 
中津川を下り、キャンプ場手前から支流へ折れる。
白っぽい岩が転がる本流とは違い、この川の風景は全体的に土色だ。
釣れる魚もまた同じような色調を持つ。
彼らの肌はトロリとした粘膜に覆れ、本流の魚よりもなまめいて見えるのだ。

懐かしい人に会いに行くような気持ちで堰堤を越える。
豊富な水を抱え込み、なおも動くことのない大岩。
その周辺にはたっぷりとした溜まりがあり、そこから溢れ出す水がいくつもの落ち込みを作っている。
大岩の際にミノーを流す。
突然、魚が飛び出してコツンと触れる。
しかしほんの少し咥える程度、その後すぐに引き返してしまった。



 登山道入り口を越え、4番堰堤の前。
ここまではノーフィッシュだ。
右端の溜りに立ち込んで、コンクリート沿いをトレースする。
2回、そして3回、なんの反応もない。
半ば惰性で投げた4回目、ゆっくり巻き続けると、やがて白泡の下からミノーが顔を出す。
「おぉ!」
なんと、そのあとを黒い影がついて来るではないか。
それが何であるのか、確認する間もなくガバッ!
「重たい・・」
泥底の水溜りに足を取られながらも後退り、まるでアユ師がコロガシの仕掛けを引くようにロッドを水平移動させる。
逃がしたくない。
もの凄い力でロッドを引くと、魚はまるで高速船のような波紋を立てながらハイスピードで水面を切って進む。
「とぉりゃぁー!」
しかし陸まであと少しのところで魚ごと根掛り。
プツン!
「ラインが切れた・・」
しかし魚はまだ現実を理解できないらしく、岩の間に挟まったまま下半身をさらけ出している。
僕はビーチフラッグよろしく、その尾ビレめがけて飛んだ。



 「デカかったのに・・・」
ガイドの先から切れたラインが揺れている。
水滴が無数についたメガネ越しにそれを眺める。
砲丸投げのようにロッドを引いた時。
もしもそれが左回転だったら、ほんの数十センチでなだらかな陸に上げられただろう。
ロッドを高く持ち、ゆっくりとリールを巻けばそれで済んだのだ。
過去の行動ひとつひとつが悔やまれる。
きっと俺の性格に問題があるんだ。
その後はネガティブな感情にまかせて何度もキャスト、しかし手応えなどあるはずも無かった。


 次の堰堤、コンクリートの壁から落ちる水がゴーと鳴っている。
酸素をたっぷり含んだ水は不規則にゆれ、やがてチャラ瀬へと押しやられてゆく。
左側に立って、垂直な壁伝いにゆっくりと巻く。
チタンリップが何度も石につまづくのがわかる。
それとは違う振動が微妙に伝わってきた。
ぐっと引いてみる。
次の瞬間、勢いよくディップが引き込まれた。
今度は慌てない。
細かなバイブレーションを味わいながらじっくりと足元に寄せてくる。
25センチの雌イワナ、体長の割には上品な当たりであった。



 僕が魚を手にするのは、いつも決まって2回目のヒットだ。
慌てたり熱くなったりしなければ、釣率十割も夢ではないだろう。
だけどそんな人間を「遊び人」と呼べるのか?
さっきまで人生を嘆いていた釣り人が、良型を上げた後には真逆なことを言う。
優柔不断、意志薄弱、そんな自分を受け入れてくれる丹沢の渓。
大自然はどこまでも懐が大きい。