2008/05/26  素直でやさしい岩魚
森の木々から一粒の雫が落ちる。
その一滴がやがて小さな沢となって中津川本流へ向う。
次から次へと移動する何万滴もの雫たち、その摂理を理解はしていても不思議な気持になってしまう。
支流のさらに上、そこに生息しているのはイワナだ。
しかも簡単に釣れる部類のとても素直なやつばかりである。
僕の釣りに数は関係ない。
だけどゼロが続くとさすがに辛い。
今日こそはどうしても渓魚に触れて帰りたかった。




 増水により行き場を失った水が岩にぶち当たり渦を巻く。
ゴーッというその響き、僕の耳は川の音でいっぱいになる。
小さな溜りが今日は大きく膨らんで、溢れんばかりの白泡が右往左往していた。
魚はどこへ行ったやら、激流にミノーを放っても渓魚の気配さえ返って来ないのである。




 上流へ這い上がる。
高度が上がるにつれ水量が落ち着いてきた。
緩い流れを中心に根気よく探ってゆくと、コツコツ・・。
「岩かな?」
その後プルプル!
「あっ、釣れてる!」
久しぶりの手の振るえが無条件に嬉しい。
バレに対する不安など皆無だ。
ここの魚は素直でやさしい。
ネットの中に納まり、静かにリリースを待つイワナは22cmあった。



 緑したたる渓谷に一人きり。
ムンとわき立つ苔の匂いを全身に感じて、僕の身体は完全に浄化された。
西の空を厚い雲が流れ、遠くの山々が紫色に霞んでいる。
「ひと雨くるかな?」
荒れた山道を歩きながら、久しぶりに味わった魚信を何度も思い返す。
爆釣、なんて無くても十分だ。
だけどその気持ちを押し付けないし誰かを批判することもない。
渓流をソロで楽しむこと、究極の自己満足がそこにある。