2008/06/07  渓で子供のように遊ぶ

小さな沢が二股に分かれている場所、そこにYellow氏がどっかりと腰を下ろす。
ガイドの僕が知っているのは、二股のうち右側の流れだけだ。
「takiさん、左側はどうなってるの?」と兄貴に聞かれてこう答えた。
「今、若い者が見に行ってます」

山岳釣行時、同行者の中に若者が一人いると重宝する。
高台にスルスルと登り、後から来る僕らのタックルを持ってくれる。
険しい支流を見つけた時に「Karma君、ちょっと見て来たまえ」と言うと、
「はい!」とばかりに狭い川岸へ飛び降りて偵察に行ってくれるのだ。
それをいいことに、今度は一升瓶と米、肉とツマミの類を背負ってもらい。
源流でのお座敷フィッシングを楽しんでみようと思う。



梅雨の晴れ間、上空に残る雨雲はどんよりとして動かない。
周辺の空気が大量の湿気を含んでいて、立っているだけでも不快だった。
水の白く砕ける場所を避け、岩の隙間やトロ場を中心に攻めてゆく。
二度三度とキャスティングを繰り返すと、やがてミノーが岩陰の溜りに落ちた。
ロッドを小刻みに揺らしながら、ラインスラッグを取る。
taki_minnowは急流に負けることなく見事に白波を切って泳ぐ。
プルプルという振動の後に、銀泡の下から黒いイワナが飛び出した。
「釣れましたぁ!」
暴れる魚を高々と上げて先行のYellow氏にアピールする。
ゴーッという渓流の響きの中、彼は遠くからニッコリ笑ってくれた。
そして上流に向きなおり、先行のKarma氏に向って即興の手旗信号を送る。
「t.a.k.i.tu.re.ta」
それに奮起したのかKarma氏もポツポツと釣れ始めたようだ。



一日中taki_minnowを使い続けているKarma氏に聞いてみた。
「ずっと同じミノーで通すんだね、ディープなどは使わないの?」
すると彼は爽やかに答えてくれた。
「深場にも魚はいると思います。でも、それは残しておこうと思うんです」
食い気のあるヤツらだけを拾い、気のない魚に無理やり口を使わせることはしない。
なるほど、川漁師みたいなことを言う。




黒い岩から吐き出される水が、勢い余って両岸にはじけ飛んでいる。
その雫を浴びながらもYellow氏はしゃがみこんで動かない様子だ。
「どうしましたか?」
近づいて見ると丸々と太ったイワナをネットに入れ、写真撮影の最中であった。
「でかいですね!」
「ドライで出たよ!」と嬉しそうに言う。
その笑顔は川ガキそのものだ。
一度ロッドを握ったら、中年も若いも関係ないのではないか。
誰もが母なる渓に抱かれた子供、そして平等だ。
お座敷フィッシングの一升瓶は僕が背負うことにしよう。
それを飲みつつ、丹沢の仲間たちと楽しく語りたい。