2008/06/28  先行者を語るな
有名河川では先行者も追行者もない。
特に早戸川はルール無用である。
明け方から一番乗りを狙っても、大抵どこかに先客がいて竿を出している。
その隣から釣り始める者、上流から下る者など日常茶飯事だ。
先行者のマナーがどうのと細かいことを語る者は、初めからこの川に来てはいけない!!



国際マス釣場のすぐ上から入渓、乾いた泥色の足跡が石の上を右往左往している。
早朝組みはとっくに上流へ去り、閑散とした川原には僕ひとりだ。
水流の弛み、大きくえぐれた深い落ち込みや淵、そのすべてを丹念に探る。
しかしピクリとも来ない。
早戸川は以前からそれほど釣れる川ではない。
理想的な渓相を持ちながらも何故に魚が育たないのか。
あまりの反応の無さに、下流をあきらめて上流の大堰堤から仕切り直すことに決めた。

井戸沢出会いでは小さな魚が追ってきた。
やっと見つけた魚影に気をよくして、そのまま細い流れを釣り上がる。
森は開け、美しい景色が現れた。
なんという綺麗な場所だろう。
急な崖から大量の水が噴出し、その荒々しさには感動さえ覚える。
「この上に行ってみたい」
この壁の上にはもっと素晴らしい世界が広がっているに違いない。
何とか登ってやろうと崖を見上げるが、這い上がって行けそうなルートは見つからなかった。


本流に戻るとすぐにヤマメが釣れた。
最初のキャストで黒い影が飛び出す。
しかしその魚はミノーを追えずに白泡に消えてしまう。
さらにもう一度同じ場所にキャスト。
今度は少し大きめの影がミノーに食いつき、バシャバシャ!
好条件と思える大場所では無反応なのに、ゴロタ石の浅瀬で複数釣れたりする。
魚の習性と僕の感性は、いつまで経っても不一致なままだ。



左側から細い流れが続いてゆく。
その沢が林道と交差する場所には古い橋がかかっていた。
直下には小さな堰堤プール。
そこへtaki_minnowを投げ込むとプルプルッとした当たり、やがて良型のイワナが顔を出した。
「まだ釣れるかも知れない・・」
その後もキャストを繰り返す。
ふと見上げると橋の上から数人の男たちが僕を見ている。
その中の一人が両腕を交差させ、大きなバッテンを作って見せた。
つまり「ダメ?釣れない?」と聞いているのだ。
僕は大きな丸を作って答える。
するとその男は驚いた顔をして「前に習え」のように腕を差し出した。
つまり、魚の大きさを聞いている。
僕は得意げに掌の間隔を20センチほど空けて見せ、さらにクチパクで「イワナ」と答えた。



この場所から上流へ行くためには一度林道に上がり、小道を通って再度川へ降りなければならない。
橋の上にはヒル払いに奮闘しているハイカーがいた。
辺りを見回すが、彼はひとりのようだ。
念のために男たちのゆくえを聞く。
「あいつらは川に降りて行ったよ」
僕はまんまと頭を跳ねられたわけだ。
しかもこの沢で魚が釣れること、それはイワナであり体長は20cmほどという情報までくれてやったことになる。
あの人数で小さな流れを攻めればウブな魚は一溜りもない。


鼻を広げて奥歯を噛締め、うらめしい面をして林道を下る。
今後は「釣れますか?」と聞かれてもすぐには答えず、相手をよく観察しよう。

「有名河川では先行者も追行者もない、先行者のマナーを語る者は初めからこの川に来てはいけない」
それはやっぱり違うだろう。