2008/07/05  滝で笑い、そして泣く
厚い雲の切れ間から、六月の太陽が顔を出す。
しめった草木はムンとした湿気を放出し、その蒸し暑さに汗が流れた。
増水した川は勢いを増し、瀬や淵には白波が立っている。
泳ぎ疲れた魚が身を寄せるとしたら、それはきっと弛みだろう。
水の動かない石の裏を、丹念に探りながら釣り上がって行く。



本谷川にはいくつもの堰堤がある。
瀬が荒れている日は、滝の下に逃げ込む魚が多いのではないか。
まずは堰堤プールの右端にキャスト、岩肌ギリギリを引いてみる。
その後、着水場所を左へずらしながら放射線状にキャストしてゆく。

ドーッという音を立て、勢いよく水が落ちる場所。
大量の泡の中へtaki_minnowを投げ入れるとグググッと引かれた。
魚信か?違うのか?
激しい滝つぼの水力で、単にディップが引かれているだけかも知れない。
ロッドを煽ってポンピングを繰り返す。
重い・・。
ラインが白泡を抜けたところで黒い背が見えて来た。
やった!
23センチの良型イワナ、本日初の釣果だった。




次の堰堤、コンクリート壁を横に見て立つ。
水の落下する様子はまるでしだれ糸だ。
それを切るようにミノーを打つが、大量の雫に打ち払われてしまう。
白泡の中で攪拌されたミノーが、やがて緩い場所へ戻って来た。
そこでゴン!
良型のヤマメが一発で食ってきた。
ロッドを上げ、ゆっくりとリールを巻いて足元に寄せる。
見事なランディングを決め、僕はすっかりエキスパート気分だ。
「今日はキャスティングの切れもいい」などと言いつつ、上機嫌で次のステージに向かって行った。




林道が途切れたあたりから渓相が変わる。
険しい崖から落下した水が、真っ黒な岩をダイレクトに叩きつけている。
岩の手前にキャスト、そのまま複雑な流れに乗せて引く。
しかし何の反応もない。
もう一度キャスト!
「あっ、最悪・・」
滝の真下の黒岩にミノーが挟まって取れなくなった。
ディップを前後左右に回転させてもまったく動かない。
そのうちに2ピースロッドの上部も外れ、滝下の岩に挟まってしまった。
拾った木の枝を利用して、滝つぼの水深を測る。
深い場所と浅い場所が点在しており、歩けないことはなさそうだ。
まるで熱湯風呂にでも浸かるように、両足を少しずつ滝つぼに差し入れた。
そのままプールの中を静かに歩く。
大量の水が僕を打ちつけ、全身ずぶ濡れだ。
「はふ、はふ、はふ・・」うまく呼吸ができない。
やっとの思いで腕を伸ばし、固く挟まった竿先を外した。
恐怖と寒さに負け、そのまま撤収。
ロッドのレスキューには成功したものの、ミノーまでは回収できなかった。



束の間の上機嫌は見事に消し去られ、みじめな濡れ男が林道を歩いていく。
手には2本継ぎのロッドを束ね、切れたラインが風にたなびいている。
その先に付いていたはずのミノーはもう無い。
偏光グラスを摘み上げ、どんよりとした空を見上げる。
乾いた夏が待ち遠しい。
首筋のヌルッとした汗を、肩でぬぐいながらそう思った。