2008/07/23  渓を三等分した日
「TABO氏の前に道は無い、琉空氏の後に道はできる」
その後に続く僕は、まるで宮中を行く公家のようにソロリと進む。
痛む膝をかばいながらの遡行は遅い。
そんな僕に気を遣い、彼らは上流からわざわざ様子を見に来てくれる。
同行者とは心強いものだ。
もしも単独なら、ガレ場を歩くことなど困難であっただろう。




渓はみごとに渇水し、浅く貧しいポイントだけが点在している。
川原全体が夏の太陽に照らされて、二人の姿が陽炎のように揺れていた。
僕に気づいた琉空氏がニッコリ笑って手を振る。
「taki_minnow で釣りましたよ!」
足元に作られた即席プールには良型の岩魚がじっとしていた。

この川で魚が釣れるのはほんの短い区間だけだ。
その先は伏流し、乾いた石のじゅうたんが延々と続く。
ゴロタ場に足を取られて転びそうになる。
喉は渇き、ボトルの水が見る間に減ってゆく。
しかし、そんな過酷な条件下でも三人ならば気楽なものだ。
取り留めの無い話に高笑いしながら、気が付けば難所を通過していた。





広く乾いた世界の果ては、意外にも美しい渓相だった。
岩と岩の隙間をうねるように続く深い流れ、澄んだ水と空気。
しかし肝心の魚は釣れてくれない。
滝を登り、崖を這い上がっても魚影のある場所にはたどり着けなかった。
しかし誰もそれを嘆いたりはしない。
両足を水に浸けて「あぁ、気持ちいい」などと言いつつ子供のようにはしゃいでいた。




湧き水をボトルに補充し、支流に分け入る。
先行は琉空氏、淵を攻めるTABO氏の後ろからは僕が続く。
狭い流れの端に少しえぐれた場所がある。
そこへキャスト、すぐに結果が出た。
バシャバシャ!
浅瀬を転がり抵抗する魚、そのしぶきの中でくねる腹がなまめかしい。
型の良いイワナを両手に掲げ「TABOさーん!」と叫ぶ。
嬉しくて嬉しくて誰かに見てもらいたい。
「さすがですね!」などと言われると、今日一日が充実したものになるのだ。




次の堰堤下、今度はTABO氏が大きな斑点を持つイワナを上げた。
彼は興奮するでもなく、ただ満足気に水面を見つめている。
厳しい条件下でも三人それぞれが結果を出す。
いつもそうだ。
誰かが多く釣ってみたり、逆にノーフィッシュという経験が我々には無い。
ポイントは常に譲り合う。
彼らが釣れれば嬉しいし、僕が釣ったら皆喜んでくれる。
我々が手にできるものは単に魚だけではない。
感動や苦難を互いにシェアできる。
それが複数釣行の醍醐味だろう。
痛む膝に手をやりながら、今そんなことを考えている。