2009/03/28  夕暮れの出来事
一般的なシンキングミノーは動きが重い。
ましてtaki_minnowのリップは金属で出来ている。
これをフローティング並の軽快な動きに変えられないものか。
昨年、2種類の試作品をテストしてみたものの満足な結果を得ることはできなかった。
通常使用によるアクションは問題ない。
だけど、激流をアップで引いたときに一瞬動きが止まる。
それは魚のチェイスが止まることを意味する。
細身でありながらもヒラリと舞い、しかも複雑な水面下を安定して泳ぐ。
そんなアイテムができないものか。




早戸川は渇水している。
しかし川としての体力は申し分ない。
水流が岩に砕け、その波頭は再びうねりの中に消えてゆく。
勢いよく落ち込む水を、広々としたヒラキが受け止めている。
細かく踊る気泡の下に試作ミノーを通してみた。
従来よりも引き抵抗は軽減され、その動きも軽い。
それでいて、しっかりと水を捉えているために安心感がある。
これは来年モデルとして十分候補にあげられるのではないか。

ミノーの動きを見ながら、そして耐久性を確認しながら釣り上がる。
しかし我々の最終目標は何もミノーを泳がせることではない。
魚が食いつくかどうかでその価値が決まるのだ。
しかし夜明けから連続で投げ続け、それでも魚の影は出てこない。
チラホラ雪さえ舞いはじめた。
岩に足を滑らせ、ずぶ濡れになった身体が芯から冷える。
「帰ろうか」とも思ったが、目の前に現れた支流を無視して戻ることができなかった。




支流へのプロセスは思ったよりも困難であった。
道らしい道がなく、急な傾斜を恐る恐る進むしかない。
足元の崖は内側にえぐれ、下を見ると目がくらむ。
やっと川原に降り立ったときは安堵して泣きそうになった。

細かい雪が降る中をとにかく歩く、そしてとにかくキャストする。
数尾の魚影を確認できたが、それでもまだ釣れない。
渓を離れ登山道を登る。
頂上のアズマヤには数名のハイカーがいた。
彼らは突然現れた僕を珍しそうに見ている。
何しろ釣竿を持ち、妙な長靴を履いた男が山を登って来るのだ。
それは彼らにとって違和感のある光景だったに違いない。



「何も釣れない・・」
肩を落として下山する。
日は西に深く傾き、まもなく暮れてゆくだろう。
途中に流れる小さな沢、ここでダメなら諦めよう。
ブッシュをかき分け入渓する。
薄暗い川底をすり足で移動し、深い淵の前に出た。
夕暮れの沢、闇を待つ森、静まり返った空気の中に水の音だけが響く。
流れ込みに向かってキャスト。
ミノーは高く舞い上がり、そしてヒラヒラと白泡の中に消えた。

少しロッドを煽ると微かな感触が伝わる。
やがてそれは重量感のあるものとなり、不規則なリズムへと変化した。
「魚・・?」
まぎれもなく魚信だ!
重い、両腕でグィッと引き上げる。
まだ上がらない。
「深場に潜ろうとしている」
ラインを巻き取り、寝かせたロッドをもう一度引いた。



やがて岩を舐めるように上がって来たのは大イワナだった。
気が付けばディップの先からラインが切れている。
危うくミノーごと持っていかれるところだった・・。
取り込めるか、それとも逃げられるのか。
天国と地獄の境目は数ポンドのラインにかかっている。
今回はまさに前者、試作品での初釣果としては満足すぎる1尾であった。