2009/04/11  友情の記憶
釣りが好きで、さらにルアーまで自作する。
少し前までは、同じ趣味を持つ者による情報交換の場がほとんど無かった。
しかし最近では僕の周囲でも少しずつ同士が増えている。
N.K氏もその中のひとり、特に彼とは世代的に話が合うのだ。
彼のもうひとつの趣味は写真撮影。
毎回ブログにきれいな画像がアップされ、訪問者の目を楽しませてくれる。
そんな彼に「僕の釣行写真を撮ってくれないか」とお願いすると快く承諾してくれた。




渓の空気はひんやりしている。
気温が低ければ写真がより鮮明に仕上がるだろう。
ただ、魚の活性には条件が良くない。
「ヒットした瞬間も撮りたいですね」
高級感のあるシャッター音を鳴らしながらプレッシャーをかけて来る。
ロッドを振る僕、それを低いアングルから狙うN.K氏。
緊張してオーバーキャスト、根掛り、木に絡まる、明後日に飛ばす、を多発。
これでは魚など釣れるはずもない。
しかし数々の失態も彼の腕でカバー、一眼レフの中にはたくさんの思い出が記憶された。




撮影が終わり、本格的に釣りモードに入る。
できればN.K氏よりも先に釣りたい。
自分だけノーフィッシュなどということは許されない!
おそらく彼も「とにかく早いとこ釣らなきゃ」という思いでキャストしていたに違いない。
理由は単純である。
互いのミノーを交換したのだ。
僕がN.Kミノーを使い、彼がtaki_minnowを投げる。
自分に釣果が無いということは、同行者の自作ミノーにも釣果が無いということだ。
できるだけ早く「ほら、君のミノーで釣れたよ」と報告してあげたい。
作り手の気持ちは作り手が一番よく知っている。
細い目をカッと見開き、できるだけ瞬きはせず、流れに神経を集中させた。

上流にある滝の下でN.K氏が手を振っている。
目が合うと彼は指を立てて見せた。
「えっ、釣っちゃったの?」
なんと美しいヤマメだろう!
体色はラメが入ったようなゴールドに近い色。
ただ、それを見て複雑な気持ちもある。
試作taki_minnowで魚が釣れた嬉しさ、ゲストが釣ってくれた喜び。
一方で未だ魚影を見ることも無く、ゲストのミノーで釣れていない申し訳無さ。
「いいミノーなんだけどなぁ・・」
未だそれを証明できていない。



午後からはイワナの渓に移動する。
N.K氏が先行、僕がその後に続いた。
小さな流れの下に深く狭い落ち込みができている。
その中へN.Kミノーを投げ入れた。
心地よい引き抵抗、リップが水をかむ感触が正確に伝わってくる。
ウッド色を生かしたカラーリングは視認性が高い。
よく見ると、その後を黒い影が追ってくる。
あわててディップを動かしアクションを加えた。
ブルブルブル!
細かい魚信の後に水しぶきが舞う。
足元に引き寄せると綺麗な岩魚だった。
「やった、やった、釣れた!!」
自分の作品で釣るよりもずっと嬉しい。




ミッションが終了し、ほっと息を呑む。
先日まで枯色だった山に緑が戻りつつある。
「もうすぐ新緑だね」
林道から渓を眺めながら歩く。
「あっ、サクラ・・」
「ホントだ、こんなところに咲いてたっけ・・」
入渓地点には、なんと大きなサクラの木が満開の花びらをつけていたのだ。
二人とも川ばかり見て、山の木々を愛でる余裕すら無くしていた。


もう数ヶ月もすると、彼は丹沢を去る。
それまでにもう一度景色を楽しみながら釣りをしよう。
その時にも映像をたくさん焼き付けてほしい。
大好きなカメラと、そして記憶の両方に・・・。