2009/06/27  数年越しの夢

黙々と林道を行く、その足取りが次第に重くなる。
山肌を降りる風はベットリとして生暖かく、とても爽やかな状態とは言えない。
長袖、長ズボンにチェストハイウェーダーそして布製の帽子。
これはもう蒸し器の中に身を置くのと同じだ。
「梅雨の晴れ間」と言えば聞こえはいいが、ムンとした高湿度には耐えられない。
急な崖を滑るようにして川へ降り、腰まで浸かって一息ついた。
下流にくらべて水量は安定している。
久しぶりに作ったアユカラーミノーを沈ませると、底石から黒い影が顔を出した。



僕が作るミノーのリップは金属製である。
そのために前方が重くなり、今まではそれを欠点だと決め付けていた。
だから着水後の姿勢を水平に保つように工夫し、さらに腹の面積を広く取った。
つまりスローに沈下させる努力をしたのである。
結果として重量のあるミノーでありながらストップ&ゴーを可能にすることができた。

しかし、深い底を探る場合には長いカウントダウンを強いられる。
僕にはそれがじれったかった。
そこで今回は手の込んだ細工を考えずに、そのまま頭から沈むように仕上げてみた。
キャスト後にミノーを深底の上まで泳がせ、そこでリトリーブの手を止める。
スーッと頭から沈ませ、底石付近へ落下したところで再度ロッドを煽るのだ。
このような縦の釣りを取り入れることによって、水中滞在時間も大幅に延長された。



林道終点まで釣り上がる。
流れが急に細くなり、その場所から退渓せざるを得なくなった。
しかし、2ヶ月ぶりの釣行となると、このまま帰るわけにもいかない。
すぐにその足で早戸川付近の小さな流れに向かう。
この沢では毎年良型を目撃している。
しかし、まだ一度も釣れたことがなかった。
「今日もいるかな」
そ〜っと近づきミノーをキャスト、リトリーブを少し止めて沈下させる。
底を取った後にほんの少しロッドを煽り、ゆっくり巻いていると来た!
水しぶきが徐々に近づいてくる。
「頼む、外れないでくれ・・」
サスペンションフックが魚の動きを吸収し、手には柔らかい魚信だけが伝わる。
急いで水際に寄せ、無事に取り込んでホッと胸をなでおろす。
23センチの良型イワナ、数年越しで釣れたうれしい一尾である。



ミノーを作る楽しみも苦しみも、すべてこの瞬間を味わうためにある。
たくさんの魚に出会いたい。
そのためにはもっと釣れるミノーを作りたい。
二つの欲望が連鎖することによって僕のオフは成り立っている
十分満足したので、林道に上がることにした。
汗でぐっちょり濡れた頬を肩で拭く。
見上げるとカーブミラーに写る顔。
その茹で上がったような間抜け面を笑うと、向こうの男も笑っていた。