2011/08/06  早戸川で和んだ日

遠い雷鳴かそれとも激流の轟音なのか、鈍い響きが僅かに聞こえる。
「ひと雨くるのかな・・」
背の高い無数の雑草を掻き分けながら進む。
数年前までこの場所には草など無く、単に石だらけの川原だった。
おそらく最近の豪雨で雑草が急成長し、鬱蒼としたジャングルに姿を変えたのだろう。



水遊びに来ている若者がいた。
20代の男性2名と小学生の女の子が1名。
水着のまま石の上に座り込み簡単なコンロで肉を焼いている。
彼らが泳ぐであろう場所にはキャストせず、僕は次のポイントへ向かう。
水流の緩い岩陰からミノーを巻き上げるとググッときた!
綺麗なイワナ、やった、嬉しい!

魚の写真を撮っていると先ほどの若者たちが声をかけてきた。
「おぉ! 釣れたんですか!」
「すごいなぁ、上手だなぁ」
あまりにも褒められるので 「持っていくかい?」と聞くと、若者は一瞬考え「いや、大丈夫です」と言う。
そこで静かにリリース、すると3人とも「えー! 」と驚きの声を上げた。
「逃がしちゃったんですかーー!」
「それならほしかったぁーー」
残念がる二人、女の子も寂しそうに黙ったままだ。
「なんだよ、ほしかったの? じゃ、また釣れたらあげるよ」




次々とキャストしながら釣り上がる僕、その後ろを三人がぞろぞろとついて来る。
よっぽど欲しかったんだな。。
そう思うと今までに無く真剣になる。
少しでも緩い流れを見つけるとピンポイントに投げてはすぐに巻く。
しかし早戸川中流域はそれほど甘くない。
彼らも少しずつ僕との距離を置き始め、やがて見えなくなってしまった。
しかし僕はあきらめない。
岩陰、垂水、淀み、浅瀬など次々となめるようにキャストしてゆく。
突然白泡の立つ早瀬でゴンゴ〜ンという当たり、そのまま引っこ抜いた。
暴れる魚はフックを外し、水際に向かって跳ねていく。
それを必死に抑えてビニール袋に収めた。
急いで彼らの元へ戻り「おーい!」と手を振る。
すると女の子が気づいて「お魚が釣れたって!!」と叫ぶ。
彼らはキャッキャとはしゃぎながらやって来てビニール袋の魚を受け取った。
「これは何ていう魚ですか?」
「イワナだよ」
「天然ですよね?」
「そう、天然・・」
「ありがとうございます!」



三日月橋から再び入渓。
溶けてしまうほどの暑さ、水の中に頭を突っ込むと火照った顔から熱が放出されてゆく。
早瀬にミノーを放ると目にも留まらぬ速さで下流に流された。
それを回収しようとリールを巻いたら異常に重い。
「あっ、釣れてる!」
なんとそれは太くて良型の綺麗なヤマメだった。



鉛色の雲、天のうなり声、そして山肌を通る風もヒンヤリしてきた。
「そろそろ戻った方がいいな・・」
林道を歩いて下る途中、崖下の川原から声がする。
例の三人組が僕を見つけて手を振っているのだ。
女の子は滑りながらも崖を登って僕に少しでも近づこうとしている。
若者が大きな声で叫んだ。
「美味しくいただきましたぁ!」
すると女の子も甲高い声で「お魚をありがとう、おいしくいただきましたぁ!」
小さなイワナの貴重な命が四人の心を和ませる。
そんなことも、たまにはある。